【感想】フランツ・カフカ『変身』を読み終えて【ネタばれあり】

※はじめに

この記事はネタバレしかないです。ネタバレOKな方はこのままお読みください。

イラストは私が描いたものです。無断転載・無断使用はお断りします。

 

その扉の向こうに、「彼」はいた。

 

「グレーゴル・ザムザ」という男の末路

 皆さま、こんにちは。さくらです。

 さる12月のある日、東京は吉祥寺、武蔵野公会堂にておこなわれたキチジンフェスに参加した時に、フランツ・カフカの「変身」をひたすら集めている出展者様から、熱烈にプレゼンされまして、私も読んでみることにしたのがきっかけです。

 ヒトがあるとき何かに変身してしまうお話は、中学か高校の時に教科書に載っている「まゆ」か何か、それくらいしか読んだことがありませんでした。なので、こういったことがない限り、一生読むことはなかったでしょう。

 

 読み進めていく中で、この不幸なグレーゴルという男がどうなるだろうとひやひやしました。何が起こっているのか私もわからず、主人公のグレーゴルでさえわからない特殊な状況の中で、願わくばハッピーエンドに終わってほしいと祈りながら読みました。

 たとえば人間に戻る治療法が見つかったり、何かの奇跡や魔法で、目が覚めたら人間に戻れたり、人間になれなかったとしても、さなぎとなって蝶や何かに生まれ変わって新たに人生を歩めたり……。何か少しでも希望的であってほしかったのですが、まるでそんな気配もなく、ついに一番にグレーゴルの心のよりどころであったであろう妹にまで、「これ」呼ばわりされてしまう始末。グレーゴルの心は引き裂かれ、りんごのケガが原因というより、この時の妹の叫びが、グレーゴルを死へ追いやったんではないかとさえ感じてしまいました。

 

 現代に置き換えてみれば、介護問題だったり、コロナの看護だったり、そうした様々な問題にあてはめて考えられることかもしれません。けれど、私は冒頭から「それとはちょっと違うような」気がしていました。それで全部読み終わってから考えてみますと、どこか「うつ」も似たような気がしてまいりました。ある日突然、何かがまわりとずれてしまう、そんな感覚をグレーゴル視点で見ているような感覚とでも言いますか。

 うつは心の風邪(あるいはがん?)とは言いますが、グレーゴルの苦しみは、それよりもっと重篤だったことは想像に難くありません。

 

 ところで、一つ興味深いことがあります。それはこの物語が、カフカにとっては「失敗作」だったことです。もっと時間があれば、もっと書けたらしいですが、その場合、いったいどんな風に仕上がっていたのでしょう。ハッピーエンドに、少しでも近づく形になったのでしょうか。